

―― 佐々木先生が、5倍から8倍に倍率を上げた理由は何ですか?
医療の質を高めたい、これに尽きますね。いくら歯科医師が頑張って治療しても、修復物には「天然歯にはない継ぎ目がある」という不利な条件があります。完全に元通りにできるわけではないので、天然歯に少しでも近づけることが目標になります。そういう意味で本来、歯は不用意に削るべきではないし、守る努力をしなければいけないですよね。でも、不幸にもカリエスや歯周病になってしまい、治療しなければならない状態になったから、人工物を使って修復しているわけです。
このような状況の中で治療をしているので、自分が削った部分は確実にカバーして、きちっと元通りに近い状態に戻したいんです。つまり、適合の精度を上げることが、自分にとっての医療の質のひとつなんですね。5倍でも一定の質は確保できていたと思いますが、5倍より8倍の方が、もっと医療の質を高められると思ったんです。
―― 「適合の精度」について、詳しく教えてください。
我々が製作する模型とか補綴物を見た先生方や技工士がこう表現していたんですが、「茶筒のふたがしゅーっと入っていく感じ」ってありますよね。あの「吸いつくようにフィットする」感触を目指しています。この精度は1本の歯でもなかなか達成するのは難しいですし、複数歯の修復では支台歯間の平行性も考えなければいけないので、よりシビアな条件の中で高い精度が求められるんですよ。
茶筒のような適合を得るために、8倍のサージテルはものすごく有効です。それは、マージンのフィットが確認できるというだけでなく、形成・圧排・印象・セメント除去など、ひとつひとつのステップで精度を上げられるからなんです。例えば、印象採得時にプロビジョナルレストレーションを外して、歯科衛生士がセメント除去をします。圧排をする前にそのチェックをするのですが、8倍を使うようになってから、セメントの取り残しに気づいて自分で最終的な除去をすることが多くなりました。
8倍で見ると、セメントの余剰分が歯肉溝に残っていたり、薄く張りついていたりするのがわかります。これは5倍では確認できなかったのですが、支台歯の印象の精度に影響してくるところだと思います。ちょっとしたことかもしれませんが、5倍では茶筒になりきれなかったのが、8倍ではなる確率が増えた。そんな実感があります。
―― 先生がそこまで精度にこだわる理由は何なのでしょうか?
歯科の治療は患者さんにはわかりにくい部分が多いです。患者さんは歯の色や形はある程度評価できても、適合の精度となるとほとんどわかりません。だからこそ、こういう見えない部分は、歯科医師である自分がシビアな評価基準を持つことが重要だと思うんです。適合の精度が悪いと、数年経ってその場所に炎症が起こったり、歯周病が再発したり、二次カリエスが起こったりといったことがしばしばありますから。
カリエスや歯周病はバクテリアが原因です。ですから、その細菌感染をコントロールするためにブラッシングしやすい環境にしたいんです。ブラッシングすれば歯ブラシが届くような、ポケットが浅い歯周組織。天然歯とまったく同じにはできませんが、継ぎ目があっても、ブラッシングすれば汚れが簡単に取れるような適合の良い修復物。これが治療結果を長期安定させるための基本だと考えています。
患者さんは、良くしたいと思ってここを訪れ、時間と費用をかけて頑張って治療を受けられます。そして、我々も患者さんの期待に応えたい。患者さんと歯科医師、お互いがこの治療を行なって良かったと思えるようになりたい。だからやっぱり、歯科治療の基本となる精度にはこだわりたいですね。