ずっと憧れてきた職業しかし現実は……
僕の中で歯科医師は、ずっと憧れの職業でした。自分の技術で勝負している、診療も手術もなんでもできるという感じがして、すごくかっこいいイメージがあったんですよね。親の勧めもあって医療系に進むことは決めていたので、中学を卒業する頃にはすでに歯科医師になることを決意。歯学部に入るときは、キラキラした夢の世界へ飛び込む思いでした。
ところがいざ臨床に出てみると、思い描いていたのとちょっと違っていて……。技術で勝負するどころか、思うように処置できないことのほうが多かったんです。たとえばむし歯の治療ひとつにしても、学校では「カリエスになっている部分だけを削る」と習いますが、実際にはむし歯を取り残してしまったり、健康な歯を触ってしまったりと技術面が追いつかないことばかり。歯周治療で、取ったつもりの歯石が取り切れていなかったということもありました。教科書や論文に書かれた内容を完全に再現するのは簡単じゃない、という現実に直面したんです。
この、理想と現実がかけ離れている感覚は、おそらくどの歯科医師も一度は感じたことがあると思います。だからこそみんな勉強し続けて、技術を極め続けて、経験でカバーしながら研鑽していくんですよね。歯科医療は臨床に出てからが本番。長い歯科医師人生をかけて理想の結果へ近づけていくことが、永遠の課題なのだと思い知らされました。