宮本 貴成先生

目の前の人を幸せにする——
それが、医療従事者の
醍醐味だと思っています

宮本 貴成先生

Metro West Orthodontics & Periodontics(アメリカ合衆国・ネブラスカ州)

EVK450(6倍)

アメリカ歯周病学会財団が発表した、「歯科界の将来を担う最も優れた教育者25人」。
その一人に選ばれている、宮本貴成先生。
日本の歯科界の有能なリーダーを育成・教育するPHIJ(Perio Health Institute Japan)の設立者であり、講演会はもちろん数々の論文や著書の執筆を行なう世界的な歯周外科専門医です。
現在はアメリカ・ネブラスカ州にあるご自身のクリニックで臨床に携わる傍ら、コーチングセミナーや企業アドバイザーなど起業家としても活躍されています。
そんな宮本先生が、2024年4月に来日!
日本とアメリカの歯科医療観の違いや、日々の診療で使われている拡大鏡についてお話を聞かせてくださいました。

世界レベルで活躍できる歯科医師を目指して

宮本先生

僕がアメリカに渡ったのは大学院へ進学するタイミングでした。歯科医師をしていた父の影響もあり、自分も同じ道を歩みたいと中学生のころから思っていたのですが、いよいよ大学を卒業となったときに「大学院へ進むならアメリカの東海岸の学校がいい」と周りから勧められたこともあって。英語は好き だったし、これからの歯科医師はワールドスタンダードでやっていかなければならないと父もよく言っていたので、進学先をボストン大学に決めたんです。

大学院卒業後はそのままアメリカに残り、ボストン大学とクレイトン大学で歯科学生の教育に携わりました。その間に歯周外科専門医としてのトレーニングも積み、2010年に自分のクリニックを開業して今に至るという感じです。

アメリカの大学院は、カリキュラム自体が「臨床にフォーカスしている」という印象ですね。日本の大学院では研究が中心ですが、アメリカでは実際に患者さんの口腔内の処置もします。

それに、大学院を卒業するときにはクリアしなければならない課題が80項目くらいあるんです。能力・スキル・適正も含め、現場へ出たときに歯科医師として高いパフォーマンスを発揮できるかどうか。そこをしっかり審査されるんですよ。

なかなか過酷な経験でしたが、学生のうちに臨床を体系的に学べたのはよかったです。いざ正式に歯科医師として働き始めてからの失敗が少ないし、失敗したときもなぜそうなるのかを自己分析することができましたから。

アメリカはすべてが自己責任 治療方針も患者さんが決める

患者さんの医療に対する姿勢や考え方は、日本との違いをすごく感じました。日本の場合は歯科に限らず、どちらかというと医療者主導で治療を進めていく傾向がありますよね。患者さんの「こんな症状があるんだけどどうしたらいいですか?」という相談から始まって、その後の流れは医師の意見を中心に治療計画が進むというか。

ところがアメリカは、治療方針もゴール設定も決めるのは患者さんです。歯を残すか残さないか、時間とお金をどれだけかけるかなど、すべてが患者さんの意思に任せられます。我々医療従事者は、その希望を実現するために雇われている立場。クライアントが弁護士を雇用するのと同じですね。

もちろんこちらとしては、できるだけ高度な治療をして、生涯自分の歯で過ごしてほしいという思いがあります。でも、歯を残すには時間もお金もかかるもの。オペをして、経過を見て、抜糸して、その後も定期的にメインテナンスに通い続けて……。歯の治療に何千万円もかけるなら、入れ歯にしてでもその金は旅行に使いたいという人もいます。健康に対する価値観は本当にさまざまですから、彼らの意見をリスペクトして、それに合わせて僕らが動くといった感じです。

やはり、その国に根づいている文化が大きく影響しているのだと思います。

そもそもアメリカは移民の国なので、他の国の人がどんどん入ってくるんですよ。日本のように住んでいるのがほぼ同じ民族同士であれば、「国として国民を助けよう」とか「税金でお互いを支え合おう」といった発想が出てくるかもしれないけれど、自分の国以外の人にも同じようにやっていたらキリがない。だから、国が何か責任を持つということはなく、すべてにおいて自己責任を重じているんです。

公的な医療保険制度も使える人は高齢者などに限られていますし、「自分の健康は自分で守る」ということですね。

キャリアのためでなく、顧客のためになることをする

宮本先生

患者さんと医療者とのコミュニケーションの深さは、圧倒的に違うと思います。僕らはプライベートドクターとして雇用されていますから、最善の結果につなげなければなりません。患者さんは今何を欲しているのか、将来的にどうなりたいかの〝すり合わせ〞は、最も大事にしていますね。

たとえば悪いところは治して歯を残したいと希望される方がいた場合、まずはお金と時間をどのくらいかけようと思っているのかを聞きます。その条件を踏まえたうえで、どんな治療法があるのか、その治療法にはどんなベネフィットやリスクがあるのかをきちんと説明し、最終的な治療方針を決めてもうんです。

患者さんの要望に応えるために、どのドクターもコミュニケーションにはかなり時間をかけていると思いますよ。そうするとだんだんと信頼関係ができてくるし、患者さんとドクターという関係を超えた〝人と人〞としての結びつきが強くなっていきます。それは、すごくいいことですよね。

医療従事者としての、自分の存在意義みたいなものは変わったかもしれません。それこそ若いころは、自分のレベルアップのために臨床経験を積んでいるような時期もありました。患者さんをたくさん診ることで自分のキャリアが上がるとか、有名になれるとか、いい論文が書けるとか。

でも、あるとき大きなオペをすることになって、待合室で待っている患者さんのご家族の姿を見たんです。奥さんや子どもたちが「お父さんのオペがうまくいきますように」と祈るような気持ちで待っていらして……。その瞬間、「あぁ、自分はこの人たちを救うために存在しているんだ」という思いがこみ上げたんですよね。それからは患者さん自身とご家族も含め、顧客のためになることをするのが医療従事者としての醍醐味なんだと考えるようになりました。目の前の患者さんを幸せにする。それに尽きます。

拡大鏡の最大のメリットは、その世界に入り込めること

宮本先生

こちらでは、ほとんどのドクターが拡大鏡を使っています。

特に若い世代の人は、拡大鏡を使わずに診療したことがないんじゃないでしょうか。

まず、大学の先生たちが拡大鏡ありきで授業を進めているので、生徒たちも当たり前のように使い始めます。僕が学生だった2000年代前半はなかったのですが、いつからか拡大鏡のフェアが大学内で行なわれるようになりましたね。拡大鏡を扱っているメーカーが8〜9社くらい来て、構内にブースを出すんです。

先ほども話したように、アメリカでは学生のときから患者さんの口腔内を診ますから、2年生から3年生に上がるタイミングでみんな自分の拡大鏡を手に入れます。高校生が大学へ上がるときに車の免許を取って運転を覚えるみたいな、そんな感覚ですね。

「圧倒的に見えること。それによって目の前に広がる世界に入り込み、集中力が上がること!」

この点が、何といっても一番のメリットだと思っています。僕たちの仕事は絶対にミスが許されないし、集中力を高めるって非常に重要じゃないですか。

先日ある映画を見て、集中力ってその人が持つ力を最大限に引き出してくれるものだなと感じたことがありました。命綱なしで岩壁を登る「フリーソロ」に挑戦するロッククライマーのドキュメンタリーなんですが、ロープを使わずに登るということはまさに死と隣り合わせ。その極限状態に置かれるとクライマーの集中力が格段に上がり、ものすごいクライミング・スキルを見せるんですよ。

サージテルをかけたときも、ちょっと似たような感覚があります。よく見えると集中力がグンと上がって余計なことを考えなくなるので、無意識のうちに治療に没頭できるんです。特に僕らぐらいの年齢になるとある程度の経験値がありますから、「絶対に失敗できない」という気持ちはより強くなりますよね。そういう精神面での安心感にもつながるし、サージテルのよさは見えることだけじゃないと日々感じています。

僕が歯科医師になる前からお世話になっている方に昔、言われた言葉があるんです。

「人間は成長したいと思う動物。成長したいと思わない人はいないはずだ」

歯科医師になって25年が経った今も、ずっと心に残っています。年齢とともに環境が少しずつ変わり、自分自身だけでなく周りの人の成長も考えなければならない立場になったからこそ、なおさら身に染みていますね。

歯科に限らず、医科の業界はまだまだ伸びしろがあると思っています。その中で自分にできることは何なのかを考え、何歳になっても成長を止めない歯科医師でありたい。それが、僕を支えている理念ですね。